自選句 一年を振り返って

わさび
ウルビノのヴィナスのおなか春来たる(初句会)
幸福の手紙を配るみずすまし(夏)
黄落や後ろ姿の妻を描く(秋)
鎧戸や千六本の冬の空(冬)

いて丁
春の鯉ぬらりと水のもちあぐる(春)
倦怠のアスパラガスを茹でこぼす(夏)
フルーツ店の空き箱高く秋立てり(秋)
のどぐろの喉の暗きを残したり(冬)


日傘さすハナミズキの道昭和の日(春)
夕立やマルガリータの白き塩(夏)
またひとつ灯の消えゆくや山の秋(秋)
なにもかも削ぎ落としてや年の暮れ(冬)


筋通す蕗のようにはなれぬとも(春)
ついてない事ばかりの日茄子の棘(夏)
願っても叶わぬことや木槿落つ(秋)
もう誰も抱かぬうさぎや冬木立(冬)

飛行船
口切りを買ひに寺町一保堂(初句会)
春一番吹いて机上は砂漠かな(春)
夕立に森の魔王の眼はひらく(夏)
さりながら日没閉門土瓶蒸し(秋)
まづ二礼何を祈らん酉の市(冬)

万作
桜咲く待ち焦がれたか人も咲く(春)
青楓対角線を生かしきる(夏)
一日と露草の露白くなり(秋)
水仙のただ一花で香りたる (冬)