第十六回そろり会

1.
春愁や遠ざかる鴨残る波 わさび(あまり・飛行船)
箱入りのハンカチあの日のままにあり 柚(あまり・鶴吉・わさび)
不器用な蜘蛛歪なる巣を張れり 飛行船(柚)
説法を聞くやハンカチもてあそび あまり(いて丁・鶉)
合席の婦人の白の手巾(てきん)かな 鶉(あまり・万作)
言えぬまま借りしハンカチ黄ばみけり 万作(あまり)

2.
葉桜や二十世紀を遠く見る わさび(あまり・鶴吉・いて丁・飛行船)
南風よヒグマの恋ようまくいけ 鶉(あまり・いて丁)
右回るハンケチ落とし蟻地獄 いて丁(あまり)
嬉しくも独り見ているカーネーション 柚(あまり)
迷い無し空見上げ咲く白鉄線 万作(あまり・わさび)
眼を伏せし男の嘘や桜桃忌 飛行船(鶴吉・柚・万作)

3.
少年の微熱遠のく夏木立 飛行船(あまり・いて丁)
ハンカチの折り目正しき鬱やまひ いて丁(あまり・飛行船)
ゆき違ふ思いからまる蜘蛛の糸 柚(鶴吉・鶉)
南風や豪華な本を縄がけに あまり
夏場所津軽力士の悔し顔 鶉(あまり)
つもりしは竹の落葉と恨み言 わさび(あまり・柚・鶉)

4.
白銀の大屋根光る若楓 柚(あまり)
山々を埋めて繋げし時鳥 万作(わさび)
著莪の花洒落た年寄り群れており わさび(鶉)
鉈傷や女郎蜘蛛に抱かれゐる いて丁(飛行船・鶉・わさび)
芍薬は約束の花今朝届く 鶉(あまり)
蜘蛛の巣の家なつかしき微老人 飛行船(あまり・柚)

5.
母の日に携帯使い愚痴を聞く 万作(あまり)
虹の立つ青山墓地の宝地図 鶉(あまり・鶴吉)
短夜や子等の寝息の安らかに 飛行船(あまり)
すずろなる君が大山蓮華かな いて丁(あまり・万作)
老いてなを襟正してや花あやめ 柚(あまり・わさび・鶴吉・飛行船・万作)
牧の春ゆっくり老馬放つひと わさび(あまり・鶴吉・柚・いて丁)
泰山木の花より白き靴磨く あまり(わさび・いて丁)

6.
しらす飯なみだのほどの塩加減 いて丁(あまり、わさび、万作、鶉)
キリストも異端者なりき蛇苺 飛行船(あまり、鶉)
切らんとて切れぬ縁や蜘蛛の糸 柚(あまり)
五月の陽残雪白く緑濃く 万作(あまり、柚)
犬も尾を巻いて見送る神田祭 鶉(あまり)
揚羽きて午後の温度の上がりけり あまり(いて丁、飛行船)

7.

栗の花思い当たらぬ手の香り いて丁(万作 あまり)
白ばらが迎える夫婦二人の店 鶉(あまり)
蜘蛛の巣にビーズ散らして通り雨 わさび(柚 鶴吉 あまり)
脚ひらくとは月の出の女郎蜘蛛 あまり(鶉 いて丁 わさび)
蜘蛛の糸一筋風に流れたり 飛行船(万作 鶴吉 あまり)
特選句☆かきつばた曲水の水清らかに 万作(飛行船 あまり)