第八回 そろり会

1.
青空に筋雲散らしすすきの穂 柚(あまり)
満月とカマンベールと君の膝 わさび(あまり・いて丁)
青春を過ごせし家の唐辛子 あまり(わさび)
穴惑ひ鏡のなかの顔長し いて丁(あまり)
端居して月光白き庭を見る 飛行船(あまり)
またひとつ灯の消えゆくや山の秋 鶉(あまり・いて丁・わさび・柚)
一日と露草の露白くなり 万作(あまり・鶉・飛行船)

2.
月の下猫集まりて夜の宴 柚(あまり)
コスモスの夢たをやかに風に揺れ 飛行船(あまり)
月のひかりや遠き日は遠きまま あまり (いて丁・わさび・鶉・飛行船)
立ち飲みの皿の酒飲む雨月かな いて丁(わさび・柚・あまり)
秋扇祇園縄手に影満ちて 万作(あまり)
水引草嬉しきことがそこここに わさび(あまり)

3.
猫抱いて非常階段月の客 鶉(あまり、わさび)
道区切る紐にとんぼの揃い踏み 柚(あまり)
満月や舗道に二つ影法師 飛行船(あまり)
月光を浴びたければ寝返れり いて丁(あまり、鶉)
新月や結び目固き割烹着 わさび(あまり、飛行船、いて丁、万作、柚)
訣別や月のひかりがあればいい あまり(いて丁、万作)

4.
言の葉を刈り込み刈り込み秋野行く わさび(いて丁・あまり)
太陽はたったひとつや敬老日 あまり(万作)
秋の海女ともだち肩並べ 鶉(わさび)
ひと指でメール打ちけり居待ち月 いて丁(あまり)
月天心おくれて渡る雁一羽 飛行船(あまり)
蜩や畳のけばに差す日ざし 万作(柚・飛行船・あまり)

5.
おはぎ食べお茶持ち母のこっくりこ 柚(あまり)
天高く美食文学大全読む 飛行船(あまり)
人は皆死ぬと言ふけど木歩の忌 いて丁(あまり・万作・鶉)
他所の田に人いなくなり秋の暮れ 鶉(あまり・柚・わさび)
口中の熱くなりたる鶏頭かな あまり(飛行船・鶉)
雨女集ひてわらう月の宴 わさび(あまり)

6.
もうひとつだけと手折るや秋桜 鶉(あまり わさび 飛行船)
父の墓小鳥の声を降らしめよ あまり(いて丁 わさび)
残る蝉ふと鳴き終えて日の終わり 柚(あまり 万作)
手にあまる熱さうらめし衣被 万作(柚 あまり)
眠られぬ夜は月光の庭に立つ 飛行船(あまり)
蓮の実の飛んで真鯉の太りゆく いて丁(あまり)

7.
捨て猫の鳴き声途ぎれ夜の月 鶉(あまり・柚)
蓋取りて清しき香り古酒の壺 柚(万作)
月住むや女の中にひとつづつ わさび(鶉・万作)
月光の藜を摘んで死ぬまじく あまり(鶉・飛行船)
秋の夜まずは徳久利用意して 万作(あまり)
菊膾食へば草間弥生かな いて丁(あまり)