駅前蕎麦。

夕暮れの諏訪湖畔の駅。帰る電車の時間まで半時ほどあるので、何か食べようと駅前のビルに入る。前を歩いている男性2人が居酒屋に入り、私はその先の、「信州そば」と、のぼりの出ている店に入る。きちんと髪をセットしてお化粧した70過ぎのおばさんがカウンターの中に立っている。「月見そばください。」と頼んでカウンターに座る。先客の男性が大音量の「水戸黄門」を見ながら肉豆腐でビールを飲んでいる。壁を見やると、額入りの写真がかけてある。大きなシマ猫が、子犬を四の字固めに抱きかかえている。その柴犬が成犬になって、なぜか猫の方がひもで繋がれていて、その犬にハナズラパンチを決めてる写真。お返しに猫の頭を柔噛みでくわえている写真。おばさんが調理場から出て来て、焼き鳥の串を10本、カウンター前の炭火の炉の上に丁寧に並べている。奥から男性が「ビール、もう一本」と叫んでいる。入り口は別だけど、隣の居酒屋とこのそば屋は厨房がつながっていて、店の人は、おばさん一人しかいないようだ。そこに新しくおじさんが入って来て私の隣に座って「おでんおねがいします。それとアイスコーヒー。」という。煮染めた大根とアイスコーヒーが一緒になった味が、私の舌をよぎる。「お待たせ。僕もビール一本」といいながら、肉豆腐の相棒が、カウンターに座る。おばさんは、カウンターをぐるっと回って私の月見そばをお盆にのせて置いて、小走りに戻る。焼き鳥がもうもうと煙を上げて、ハジッコは焦げかけてるのを、一本ずつひっくり返す。よくよく茹だったそばと卵をかき込んで、きっちり530円の小銭があったことを、おばさんと自分のために喜んだ。写真に写っていた犬猫の関係を聞く暇がなかったことが残念だった。