金沢21世紀美術館

 金沢に泊まるのは学生の時以来なので、短い時間で市内を見て回ろうとホテルでもらった地図を熟読しました。朝9時から電車の時間まで3時間。荷物を預けて出発です。駅前から武蔵坊という所まで歩いて「近江市場」という活気のあるアーケードを通り抜けます。いきのよさそうなイカカニカワハギなどが目に付きます。野菜の種類も多くて安い。そこを通り過ぎて東に進み浅野川を渡って東茶屋街に。小京都といわれる粋な通りです。そこをくるっと西に回って天神橋という橋に佇みます。河原で犬を散歩させている女の人がいて山本丘人の絵のようです。

  • (もたもたしてたら女性が物陰に隠れてしまった。)


さらに大通りまで歩いてタクシーを拾い話題の「金沢21世紀美術館」へ。当初年間入場者30万人を予定したら、2か月程でクリアして100万人以上も来館者があるそうです。美術館の建物は大きな円い平たい建物でした。町の中心部の小高い丘の上に着陸した円盤のようです。外に面した部分は全部ガラス張りなので、とても自由な感じがします。中に入ってコレクション展の切符を買います。350円は安い。コレクションは全部バリバリの現代美術。それもそのはず、英語名は「21世紀コンテンポラリーアート美術館」です。展示場は天井の高さは様々ですが外光がたっぷり入ってとてもキレイです。順路に沿ってクネクネと部屋を巡ります。光庭と呼ばれるスペースのテーブルの上にワイングラスがのっています。その水の中でアクアラングを着けたフィギュアが口からプックリ泡を吹いています。眼鏡をかけてシミジミ見てると係員の人にこれで見ろと2メートルくらい離れた所にある望遠鏡を指差されました。それで覗くと大きく見えました(当たり前ですね)。これって江戸川乱歩の「押絵と旅する男」の簡単バージョンじゃん。と勝手に思って地下にすすみます。無機質な廊下を進むとプールの底に出ます。見上げるとプールの表面の水がそよぎ上から見下ろしている人が見えます。廊下を引き返して階段を上ると出口です。入口から出口まで8分くらいで見ちゃいました。いくら急いでいるといってもこれで見たといえるのかと反省。でもコンテンポラリーって感情移入するのにとても時間がかかるし、ついに移入出来ないことも多い、というのが実感なのです。それでもこの美術館が成功しているのは建物の入りやすさと立地の良さがあると思います。もう無闇に高い建物は止めた方がよろしいんじゃないでしょうか、という気持ちを代弁してくれる建物です。展示は現代の見せ物小屋と割り切れば面白いと思いました。

  • 美術館入口。目立たないように建てたのだと思います。

でもこの建物の感じはどこかで見たことがあるような気がしてならないなー、と思いつつ金沢の中心香林坊に向かいます。途中輪島塗のお店に入ったら「明日見舞いに行かなあかんさかいミネラルウォーター60本積んどいて」と電話で話しています。そう、おととい輪島で大きな地震があったのです。香林坊から竪町、新竪町商店街を通り抜け犀川に出ます。寺町を通って西茶屋街まで行くつもりでしたが坂道を上らなきゃならないので今回はあきらめました。ここまで2時間。犀川のほとりを歩いて大通りからバスに乗って金沢駅に戻りました。電車が直江津を過ぎた頃、ハッと思い出しました。あの美術館が何に似ていたかを。青山墓地に直径3メートルくらいの円いお墓が幾つもあるエリアがあるのですがそれに似ているのです。古墳のようでもあります。白い迷路を胎内巡りすると最後に青いプールの底に行き着くなんて、よく出来たラビリンス(迷宮)でした。帰路の電車では吉田健一の「金沢」という本を読んでいました。これは東京に住む主人公が犀川を望む古屋敷を買い求めて、折にふれてはそこで時間を過ごす。メフィストのような骨董屋に案内されてその町に住む人や酒肴や書画骨董を経巡る。入り組んだ文章で読んでいると酔っぱらっしまうような奇書です。この本と美術館の挟み撃ちにあって東京駅に着いた時にはしっかり風邪を引いておりました。
-犀川。桜橋。金沢ってフィレンツェに似てるように思います。