「幸せの絵の具」で描く蜃気楼

カナダで一番有名なナイーブアートの女性画家、モードさんのお話です。
モードは若い時からリュウマチで体が弱い。両親亡き後、兄に家を売り払われてしまう。行き場を失って、粗野な男性の家政婦募集に応募してその家に住み込む。
その4メートル四方の二階屋でどこにも行くあてのない二人が一生寄り添って生きていく話。

撮影はその家を再現してなされたそうだ。小さな家を、モードが絵を描いて埋めていくところが見所。
でも全体はシリアス映画。どんな人生も多面体であって、どの部分を取り上げるかで見え方が違う。
じょじょに二人が近づいていく甘さを嫌ったのだろうがちょっと苦すぎたと思う。
しかしエンドロールの直前に本人と夫の動画が数秒でてきて、その印象はさすがモードの絵そのものだった。
モードの絵は子供の絵だ。それを最後まで貫く、というかそれが彼女の世界なのだ。

私は素朴派の絵が好きだが、本物の素朴派はかなり特殊な条件の中でしか描き続けられない。
それは地位、名声、金とセパレートした場所なように思う。

映画館を出て、街路の植え込みの花が、一瞬、モードの絵に見えた。
彼女の目が私に乗り移ったのであった。

誰でも素朴だった時がある。その気持ちを時々は思い出したい。