半世紀思いしみじみ剥く蜜柑

新年あけましておめでとうございます。
創業50年の年を迎えました。
画家の皆様、大勢のお客様、すべてのお取引先の皆様、社員諸君、ありがとうございます。皆様のおかげで「一枚の繪」が成り立っています。

「家庭の団欒のために絵を売っている。利殖目的の絵を売っているのではない。だから絵の買い取りはしない。(中略)だいたい売ったものを買い取るような商品は他にないでしょう。」

1988年6月号の「月刊美術」に「絵画大衆化軍団「一枚の繪」」、という特集が組まれていて、上は父がインタビューで語っているのを引用した。自分の親であるが、創業者というのはすごいと思う。明確にポリシーが確立されていて迷うことがない。
絵画という商品は客観的価値基準が無い。とにかく最初の接点はは好き嫌いだ。買う人に選ばれる絵が良い絵なのだ、ということを押し通し、それで年間50億も売るという時期があったのだ。それを可能にしたのは、誰でも絵を選んで買える、という場を提供したことだった。父でなくても誰かがやることであったと思う。しかしその先鞭をつけた時、絵を商品だと思わなかった世の中には衝撃だっただろう。
 それから半世紀。一番変わったのは生活がインターネット抜きでは考えられなくなったことだ。一人一人が膨大な情報にアクセスできるようになり、それが生活様式を着々と変えていく。こんな風に世の中は変わっていくのだと毎日思わされることばかりだ。しかしどんなに変わろうと、生身の人としての生活もまた続いていく。こんな時こそ生活を大切にするしかない。決して時代に負けるのではなく、緩やかにつながっていく。その生活の中に絵がある。
 戦後、我が家には間借りをしている時代から絵があった。貧乏暮らしの中でも絵があったのは、母の父が美術教師であったこともある。母も絵は上手で、その母に父は一目置いていた。しかし、父が新聞社の社長をクビになって画商になるとは家族の誰も思わなかった。何か見えない力で半世紀生かされてきたのかもしれない。
 絵が愛されなくなることは決して無い。それは私の信念でもある。これからもお客様に愛される絵を提供し続けていきたい。