赤い部屋

エルミタージュ美術館展に行った。平日朝早いのに混んでた。入口からダヴィンチがあるな、レンブラントがある、ロココのエロい絵も、と人ごみの頭越しにさっさと眺めて最後の部屋の「赤い部屋」に辿り着く。小学校の教科書で最初にマチスを見た時なんだか野暮ったい絵だと思った。すごく違和感があった。それが多分この絵だったと思う。色が主役で人物も模様も外の景色も混然と二次元の世界に並列している。側で見ていた若い人が、漫画みたいだ、とつぶやいていたが、そうなのだ。ジッと見ていると絵の中に吸い込まれたような気がした。後ろをふりむくと沢山の人が覗き込んでいる。左手には輝く新緑から木漏れ日が落ちている。自分の服にも部屋の赤い色が写り込んで体温まで上がったようだ。あー、なんという幸福感。マチスの絵にはいつも幸福が満ちあふれている。子供の時感じた違和感はそれかもしれない。絵が子供と同じシンプルな幸福の地平線にあったのではなかろうか。その絵をガキの私は泥臭いと感じたのだ。ありがたかったり偉かったりする名画ではなかったのだ。いつからマチスが好きになったかは忘れたが、その第一印象は忘れられない。
 と、実物が見られて嬉しかったのだが、絵と額縁がすこしずれているのが気になった。絵の下と右の縁が1.5センチくらい下塗りの緑の地が見えている。もしかして下塗りじゃなくて緑で縁が取ってあるのかと思っちゃった。何か意味があるのかな。きっと大雑把なだけだと思うけど。