紫陽花や通夜に向へる夕まぐれ

織田広喜先生の通夜に伺った。幡ヶ谷から斎場に行き、帰りは代々木上原に向った。途中来るときとそっくりな紫陽花が咲いていると思ったら、来た道に戻っていたのだった。入り組んだ道の町なのだが狐につままれた様だった。織田先生の絵も夢のような絵だった。初めて先生のお宅に伺った時、その夢のような女性そのままの容貌のリラ夫人が出て来られてびっくりした。その最愛のリラ夫人が倒れて、抱いて入浴されるほど介護された。夫人が亡くなられた時「とてもニコニコした顔で、あー良いところにいったんだなー、と思ったのよ。」と話されたのが忘れられない。先生はいつも着流しに絵の具まみれの前掛けを付けられ、描きかけのカンバスが高く積み上がった中で絵を描かれていた。絵をいただく直前まで手直しを、文字通り手の指で直されてサインされた。画廊にいてもパーティーの時でも、いつも小さな紙に絵を描かれていた。私も描いていただいたことがあるが、見事に織田広喜の女であった。アカデミックな絵ではないし具象でも無い、判りやすい絵とはとても言えないが芸術院会員まで登り詰められた。織田広喜の絵、としか呼べない個性を画壇が認めたというのは、この硬直化した世の中である意味スゴイことのように思う。自分の行く道を全うされた幸福な絵描きであったと思う。
合掌。