ピカソ

パリのピカソ美術館が改装工事中で、どっさりピカソが日本に来ている。「絵描きで誰が好き?」と聞かれて「ピカソ」という人は意外と少ないような気がする。でも好きでも嫌いでも「ピカソはスゴイ!」というところで異論をとなえる人も少ないと思う。今回も六本木で2つの展覧会を見たのだが、「スゴイ」としか言えない。これだけ絵のスタイルをためらうことなく変えていけるパワー。展示室を回っていると、レジェ、ブラック、ジャコメッティの作品かしらと戸惑うが、みーーんなピカソなのよね。みんなが好きな初期の「バラ色の時代」「青の時代」なんて、あっ、という間に終わっちゃうわけ。凡人ならこんなに素敵なスタイルを手に入れたら絶対離さないと思うけどピカソは違う。だって、自分が描きたいと思うことにしか関心がないから。’レジェがキュービズムやってる、おもしろそうじゃん、ボクも描こうっと。’と思っているのが良くわかる。つまり気の多い人なのだと思う。数多くの作家の中で、ピカソマチスには一目置いていたそうだが、それは自分と違うマチスの資質、多分自分の才能を徹底的に洗練尽くしていく、そのやり方だったと思う。マチスの晩年の切り絵が素晴らしいのはその計算に於いての成果だと思う。一方ピカソのリノカットや陶器の自由さから計算は感じられない。完成度ということをあまり気にしていないように見える。それで、ピカソは自分が作ったモノをあんまり評価していなかったんじゃないか、とちらっと思った。こんなんじゃない、ボクにはもっともっとすごいものが描けるはずだ、と。
ピカソはシジフォスだったのかもしれない。