包丁を研いでもらって昭和の日 

 病院に向かう自動車がやっとすれ違える路地に「刃物研ぎます」と、消えかけた字の小さな看板が出ている。ずっと気になっていて、包丁二本、手拭いで巻いてハンドバッグに入れて持って行った。おばさんが出て来て「おとうさん出かけているのよ。」というので預けてくる。翌日行くと「すぐ戻ります」という張り紙がしてあって、何時か書いてない。「うん、もーっ。」と思うが、20分ほど近くの公園のベンチで本を読んで、戻ると80才くらいのおじさんがいた。包んである包丁を渡してくれながら「見てみる?」躊躇していると「見て喜んでもらうと嬉しいんだよ。」と言われて包みを解く。ピッカピカだ。「今の人は研ぎ方知らないからね、ハンズなんかで研ぐとうちの倍取るよ。」ここは工務店の看板を出している。包丁研いでくれたのは大工さんなのだ。「いい片刄包丁だね〜。こんな包丁で料理してくれる奥さんの旦那は幸せだね。」と言われる。そうだそうだと深くうなづく。
 包丁は怖いほど切れるようになった。人参すぱすぱ、きゅうりネギくっつかない。持ち手の部分も削ってきれいにしてくれた。幸せ昭和気分であった。



花道も間もなく尽きる八重桜