個人美術館巡り

 週末を利用して静岡県の美術館に出かけました。
 まず天竜二俣の「秋野不矩美術館」。明治41年生まれの秋野不矩の絵のメインテーマはインド。53才の時にインドのタゴール大学の客員教授として渡印。日本画の顔料を手に入れることが困難な彼の地で、インドの大地の土そのものに膠を混ぜて描き続けました。そのインドを描いた大作が高い天井から彩光した真っ白い展示室に掛けられています。大作が7点。洪水の河を泳ぎ渡る水牛の絵が印象的です。あとはアプローチの回廊に「一寸法師」の絵本原画と小さな作品が10点くらい。かなり不便なところにあるので、わざわざ行く人のためには食い足りない感じ。でも子供6人も生み育てて離婚して、53から93で亡くなるまで何度もインドに行くなんてスゴイ女性です。熟年世代の星ですね。この美術館は藤森照信の砂漠の砦を思わせるような建物でも有名です。秋野不矩自身が藤森に依頼しただけあって良く調和しているようでした。
 次は静岡市の「芹沢ケイ介美術館」。ここは柳宗理白井晟一を指名して美術館を建設。その建物を芹沢が気に入らなくて白井と一緒に美術館に来たことがナイ、という曰く付きです。白井の建築は石を積み上げた重厚な荘厳さが特徴です。一方、芹沢の作品は型染めを中心とした軽やかな洒脱味が身上ですから、素人目にもこの組み合わせはいかがなものかと疑問に思います。柳宗理の真意はなんだったのでしょう?芹沢は倉敷の民芸館の内装を担当しているのだから、ご自分でなさったほうが意に添ったと思われます。でも見方を変えれば二人の天才のがっぷり四つともいえます。なんだか二人があーだこーだ言っている声を聞きながら見て回るような面白さがありました。展示品は型染めから板絵、ガラス絵、本の装丁、挿絵etc.芹沢の多才ぶりが堪能できます。型染めの着物、屏風、暖簾などは洗練の極みです。素晴らしいデザイナーでもあったと思います。
 個人美術館というのは特別な思い入れがあって建てられるものですから、普通の美術館とはひと味違った味わいがあります。訪れるほうは好みではない作品をわざわざ見に行ったりしないのですから、目的ははっきりしています。そのファンのためには出来るだけ出し惜しみしないで作品を見せてほしいと思いました。         パリにギュスタフモローの美術館がありますが、そこはモローが生前住んでいたアトリエで、壁一面に作品が飾られ、螺旋階段を上った部屋にはデッサンが数えきれないほど大きなカルトンに入れられて自由に見ることが出来ます。神棚に祀るようにしなくても、そーいうおおらかさも欲しい、と感じました。それと美術館は作品を納めるためにあるのに、最近は建物で語られることが多い現実があるようです。それは絵を商っている者にとってちょっと残念なことですが、そのコラボレーションを面白がるというのも個人美術館の楽しみ方だと思った小さな旅でした。