アルフレッド・ウォリス 庭園美術館

ルフレッド・ウォリスってご存じですか。私は知りませんでした。
70才で絵を描きはじめた船乗り。グランマザーモーゼスみたいです。
庭園美術館で開催中の、そのタイトルも「だれもしらなかったアルフレッド・ウォリス」。素朴画好きなので見に行きました。ウォリスはイギリスの左下の足の裏あたりのセント・アイブスで船具商をしていました。その彼の絵を、偶然通りかかった、ベン・ニコルソンが見出したというのは奇跡のようなことでした。「ウォリスのイギリスの美術界への登場は、ピカソによる税関吏アンリ・ルソーの発見にも比すべきもの......」とパンフレットに書かれているほど、彼の地では評価されているそうです。ボール紙や板きれの上に描かれているので、いたみやすいせいか館内はカーテンを降ろして薄暗く、照明もしぼってあって、とても落ち着いた雰囲気です。この美術館はもと朝香宮邸でアールデコ様式の建物が有名です。その中で見る初めての絵は、とてもロマンティックでした。(ここまで書いたことはほとんど美術館のちらしと同じです。)ウォリスの絵の海と波の色はさすが長年船乗りをしていただけあってすばらしい。青をあまり使わずに北の海の色を見せてくれます。海が体の一部のヒトなのだと思います。絵は上手くない、というか構図とか遠近法とかぜんぜん関係ない世界。ということは、これも現代美術というものなのかね?といろいろ考えてしまいました。
 テレビで野球の張本が言ってました。「素人には一発大成功があるが、プロは常に結果を出して、それを長く続けなくちゃいけない。」同じことが絵描きにもあてはまります。ウォリスは画家として成功するために絵を描いていたわけではありません。それは夾雑物のない描きたいと思う気持ちの集成でした。アカデミズムと相対するもので、ピカソがそれと苦闘した結果、何度も何度も絵を変えていったことを思い出します。ウォリスの絵に出会ったベン・ニコルソンが衝撃を受けたのがよーくわかる。ニコルソンがウォリスの影響を受けた絵も展示されていました。白いカーテンのかかる窓越しに鈍い陽の光がさす海の絵。帆船が遠くに見えます。淡い淡い色でまとめられていて、ため息が出ました。さすがプロ。盗みたいくらいいい絵でした。
 暗い展示室の途中の休憩室からは、冬の日差しが低く射す洋風庭園が見渡せて、ここはどこだろう、と思わせます。1時間の海外旅行でした。
 私はこの美術館の向かいに住んでいたこともあるので、スゴク変わった町並みを懐かしく眺めながら、聖心女子大のシックな赤煉瓦の塀にそって白金台の丘を転がり落ちるようにして会社に戻りました。東京が日に日に外国のように見えてくるのは、年のせいなのでしょうか。
http://www.teien-art-museum.ne.jp/exhibition/wallis/index.html