台風や非常ボタンの赤い色


非常ボタンは日常のあちこちにあってそれは鳴らない前提で生きている。ベルが凄まじく鳴ってみればその後どうするか決めていなかった事にはたと思い当たる。生きることはなんと危なっかしいことなのだろう。


記憶する心臓―ある心臓移植患者の手記

記憶する心臓―ある心臓移植患者の手記

ノンフィクション。作者は45才の時心肺同時移植を受けたアメリカ人女性。移植を受けた後作者は今まで口にしなかったものを食べたくなり見た事の無い夢を見るようになる。禁じられているドナーを捜し、その家族を見つけ出し提供者の若者の生活パターンと移植後の彼女の嗜好の一致を確認する。作者は現在ダンサー振付師であり臓器移植推進のNPO活動をしている。彼女の車には「臓器も天国に持って行かないで」と書かれたスティッカーが貼られているそうだ。臓器が生き続けているなら移植した方が良いのかどうか私には判りかねる。脳死を確認して臓器を取り出すのは生体からしか移植は出来ないからだ。読み終わってなんとなくテレビを見ていたらカズオイシグロの特集で「私を離さないで」という作品を語っている。それがドナーの話しのようなので読む事にする。



わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

こちらはフィクションだが、同時進行型SFとでもいうのか設定は現代。第二次世界大戦の後移植技術が確立され人間のクローンも出来るようになり臓器移植の為のクローンが作られる。クローンが人間扱いされない事に対する非難運動が勃興して、いくつかの模範的寄宿舎が出来る。そこで成長した3人の男女の物語。淡々とすすめていく語り口がストーリーの非凡さを際立たせる。これほど寄る辺の無い気持ちを書いた設定はかって無いだろう。読み終わって疲れた。すごく。

生まれて生を全うして死ぬ事のすごさを思う。