第九回 句会

1.
柿の実に朱が刺す頃や旧校舎 万作(あまり・鶉)
蕪漬けさくさくと食む良夜かな わさび(あまり・万作・飛行船・いて丁)
さりながら日没閉門土瓶蒸し 飛行船(あまり)
目覚めては思ひ返せぬ夜長かな いて丁(あまり・わさび・鶉)
行く秋を眺め果つるや白野菊 鶉(あまり)
うらがるるもののひとつに吾が心 あまり(万作・いて丁・わさび・柚)
からからと枯葉ころがる道の端 柚(あまり)

2.
停電や柚子の香りと猫の声 あまり(柚)
枯れ蔦を手繰りて曲がる塀の角 わさび(あまり)
意地悪の女顎引き秋袷 鶉(万作・あまり)
うら枯れるものばかりなり五十肩 いて丁(飛行船・鶉・あまり)
絞る手のすだちの香りひそやかに 柚(わさび・あまり)
夕映えに影切り取るや残り柿 万作(あまり)
秋燈に短冊の文字立ち上がる 飛行船(万作・柚・あまり)

3.
美しく枯れるは無理と紅を引く わさび(あまり・万作・飛行船)
オフィス出て街ことごとく末枯れる いて丁(あまり)
枯るる森鎌を杖にし父と行く 鶉(あまり)
海光のコスモスを折る子供かな あまり(わさび・柚)
秋まゆを集め自前の紬織る 万作(あまり・いて丁)
南天の実の掌になほ赤し 飛行船(あまり)
ミャーミャーと鳴く声愛しこぼれ萩 柚(あまり)

4.
さよならを言ふため高きに登りけり あまり(いて丁・わさび・飛行船)
団栗の無邪気さも苦し三十路かな 鶉(いて丁)
厄日過ぎ木の実のやうな犬の鼻 あまり(いて丁)
ほつれ毛の白髪いとしや後の月 万作(あまり)
冬薔薇の咲けば霙れる垣根かな 飛行船(あまり・鶉)
みちのくの色白の人と紅葉みる わさび(あまり)

5.
吾亦紅カサリと揺れて日が落ちる わさび(あまり・柚)
人生の大口叩く通草かな いて丁(あまり)
願っても叶わぬことや木槿落つ 柚(万作・いて丁・飛行船・鶉)
稲雀捨身のときの我になし あまり(鶉)
ポインセチア無言で愛を語るなり 飛行船(あまり)
分け入りて産廃街道泡立草 いて丁(あまり)

6.

月さして宇宙に浮かぶ四畳半 わさび (あまり いて丁 飛行船 鶉)
鈴虫の鈴溢れたり夜の谷 柚 (あまり)
末枯れてそろり現る地蔵さん 万作(あまり わさび)
この秋は寝て過ごさむと畳拭く あまり(いて丁 鶉 柚)
数珠玉の数珠枯れてをるおもちゃ箱 飛行船(あまり)

7.
風にゆれ小首かしげる赤とんぼ 万作(柚)
柿みのる門前町蕎麦屋かな わさび(あまり、飛行船)
森の中道なき道に鹿の声 鶉(あまり)
明け暮れの色より生るる秋思あり いて丁(あまり、万作)