バブルの文化

なるほどと思ったので転載いたします。
お金のためにお金を使う、ということにはどうも抵抗があるのです。お金は他のことのために使う物よ。 




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 ■ 『オランダ・ハーグより』  第201回
   「バビロンに帰る

   □ 春 具 :ハーグ在住・化学兵器禁止機関(OPCW)勤務

(前段略)

 そもそも資本主義の精神は、キリスト教におけるプロテスタントとピューリタニズ
ムの精神にバックアップされているのだという社会学マックス・ウェーバーの議論
がありますが、新約聖書のマタイ伝だったかな、イエスが行った説教の中にタラント
の喩えという話がありますな。タラントは当時の貨幣単位であるが、あるとき主人が
僕(しもべ)たちにお金を預けて旅に出るのです。

 5タラントを預かった僕はさっそくそれを商売・投資にまわし、5タラントの収益
を上げる。だが、1タラントを預かった僕は、危険を避けてオカネを壷の中にしまっ
たままにしておく。しばらくして主人が旅から戻るのですが、最初の僕は「ご覧下さ
い。わたしはお預かりしたお金を投資して二倍にしました」と報告し、主人によく
やったと褒められる。そして二番目の僕も自慢げに「ご覧下さい、ご主人様。わたし
はあなたのオカネを無事そのままに管理してきました」と告げるのです。

 だが、主人は2番目の僕に向かって「怠惰な僕よ。そんなことならわたしはお金を
銀行に預けておくべきだった。帰ってきてわたしは利子とともに元金が受け取れただ
ろうに」と言い、彼を追放してしまうのです。

 つまり、資本主義とはオカネを寝かせていてはダメで、オカネは働かせ続けなけれ
ばいけない、それがプロテスタントの精神だと言うのです。

 反対に、とこのオランダ評論家は続けるのですが、カトリックはそんな厄介なこと
は考えない。オカネは銀行に預けっぱなしにして利子で満足するか、消費に精を出
す。だから、カトリックの国(フランス、スペイン、イタリア・・・)ではバブル経
済が破綻するなどということは起きないのだと言うのです。

 随分雑駁な議論だが、わたくしはおもしろく聞いた。

 思い出してみても、17世紀に欧州でおきたチューリップ・バブルという経済学史
上の大事件はプロテスタント国のオランダが発端だったですね。チューリップ・バブ
ルは不思議な事件で、あのちいさな球根があまりに高価だというので、当時の労働者
の賃金10年分の値段がついたという。それはあたかも持っているお金は働かせなけ
ればいけないというプロテスタント的な強迫観念にとりつかれて、オランダの市民は
すべてが持てる財産をつぎ込んでチューリップの球根を買い込んだというわけであり
ます。

 その反面、フランスやイタリアでルネサンスロココ文化が花開いたのは、貴族の
消費のおかげとも言えましょう。リオンの経済史が物語っておりますが、裕福な階層
に支えられて、リオンの絹の織物経済やグルメの文化は、発展したのであります(つ
まり消費による経済の発展だ)。

 だが、そこでさらに思うのですが、マタイ伝で5タラントを預かった僕が、もし投
資に失敗したらどうなっていただろう。運用に失敗し、大穴をあけたなら主人にこっ
ぴどく怒られたのではないか。その怒りは1タラントを壷にしまっていた僕など比較
にならないほどおおきな怒りだったのではないか。

 だが、それについて、聖書はなんの説明もしておりません。

(後段略)