着物本

何かにハマッタ時のお決まりで、着物本をいっぱい読んだ。30冊くらい読んだ。そして一番役に立ったのは「幸田文の箪笥の引き出し」だと思う。思うというのは変な表現だが実用という意味ではないから。本そのものではなくて一枚の写真だから。その本に彼女が芸術院会員になった時スピーチしている写真が載っている。ゆったりおおらかに、であるが襟合わせはグッサリ、帯締めの結び目は一方に寄っている。とても裾窄まりには見えない。私はその写真を見た時本当にショックを受けた。これでいいんだ、と。思い返すに既に私の世代でも日常着として着物を着ている人は少なかった。だから私の着物ウオッチ体験は祖母、母の訪問着、雑誌ということになる。その結果、祖母は別として、常に人に見られるということを意識した着物しか見ないことになる。幸田文の写真はそれを見事にひっくりかえしてくれた。それは日常に着物を着ている人の着物だった。きれいにきれいに着ているのを見慣れた目には、とてもビビッドだった。晴れの場で嬉しそうに話している彼女に着物がゆったり寄り添っている。主役は着ている人である。これだね、と腑に落ちたのだった。